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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)6号 判決 1975年10月23日

昭和四七年(行コ)第六号事件控訴人

同年(行コ)第八号事件被控訴人

第一審原告

松岡きく

外一三名

右一四名訴訟代理人

泉博

外五名

昭和四七年(行コ)第六号事件被控訴人

同年(行コ)第八号事件控訴人

第一審被告(承継前第一審被告田島守保の相続人)

田島曉

昭和四七年(行コ)第八号事件控訴人

第一審被告

今井兼太郎

佐伯邦房

右三名訴訟代理人

平岩新吾

主文

第一審原告ら及び第一審被告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用中、第一審原告らの控訴に関する部分は第一審原告らの負担とし、第一審被告らの控訴に関する部分は第一審被告らの負担とする。

事実

第一審原告ら代理人は「原判決中、第一審原告ら敗訴の部分を取消す。第一審被告田島曉は、東京都国立市に対し金一、三〇五万二、二三五円及びこれに対する昭和四〇年一月一一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。第一審被告らの控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、第一審被告ら代理人は「第一審被告田島曉につき、原判決中、同第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審被告今井兼太郎同佐伯邦房につき、原判決を取消す。第一審原告らの請求を棄却する。第一審被告田島曉につき、第一審原告らの控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、次のとおり附加、訂正する外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。<以下、事実欄省略>

理由

当裁判所は、当審における証拠調の結果を斟酌し更に審究した結果、第一審原告らの本訴請求は原判決認容の限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は左記のとおり附加、訂正する外、原判決の理由の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。<中略>

五当審において追加した第一審被告らの損益相殺の主張に対する判断

損益相殺とは、損害賠償請求権者が損害を被つたのと同一原因(即ち、同一の社会的事実)によつて反面利益をも得た場合に、公平の原則上、損害から利益を差引いた残額を以て実際に賠償すべき損害額とすることをいうものであるが、その際控除すべき右利益の範囲は賠償原因と相当因果関係に立つものに限定するを相当とするところ、本件における損益相殺の前提となる損害賠償の原因は、第一審被告らが本件土地を不当に高価に買収して、国立町に適正買収額との差額に相当する損害を与えたという事実ではなく、第一審被告らが違法な本件借入による利息の支払をして、国立町に右利息相当額の損害を与えたという事実であるから、右賠償原因と相当因果関係に立つ利益のみが損害額から控除されるべきものである。しかるに、本件において第一審被告らが主張する損益相殺の対象となる利益は、要するに国立町が本件土地を取得した後、同土地を他へ高価に売却して利益を得たというものであるから、賠償原因が前者の場合であるならともかく、賠償原因が後者の場合である本件においては、右利益は、前記相当因果関係の範囲をかなり広く解するとしても、本件借入の目的及び国立町の爾後における本件土地売却の理由が何であつたかを論ずるまでもなく、前記賠償原因、即ち違法な本件借入による利息の支払と相当因果関係に立つものとは到底認められないものと解するのが相当である。従つて、第一審被告らの前記損益相殺の主張は主張自体失当であるのみならず、仮に主張自体失当でないとしても、本件土地の買収が、農地法違反によつて生じた砂利穴の問題を処理、解決すると共に同土地を将来公共施設の敷地として利用することをも目的としてなされたものであることは既に引用部分において認定したとおりであるが、本件土地を町営グランドとして造成利用するためにも買収したという第一審被告らの主張はこれを認めるに足る的確な証拠がなく、かえつて引用部分において成立を認めた<証拠>を綜合すれば、本件土地は利用目的を明確にした上で買収されたものではなく、国立町が公共用地の取得難にかんがみ、将来の公共用地を確保するため、いわば先行投資として買収したにすぎないものであることが認められ、<証拠>を綜合すれば、成程、国立町は、本件土地を買収後、昭和四〇年一〇月、建設省から多摩川の河川敷を町営グランドの敷地として、無償且つ無期間で借受けたこと、並びに同四一年三月三〇日、議会の議決を経て、本件土地を前記引用部分において認定した大村建材からの買収代金(従つて多摩中央信用金庫からの借入金)及び同金庫に対する支払利息との合計額をはるかに上廻る代金一億八、一六四万三、一九〇円で国立町農業協同組合に売却し、差引き三千数百万円の利益を得たことが認められるが、反面、<証拠>を綜合すれば、国立町が本件土地を国立町農業協同組合に売却したのは、同町が建設省から多摩川の河川敷を町営グランドの敷地として借受けることができたためであるというより、昭和三九年以降本件土地の買収をめぐり、国立町民及び同町議会において、町長である承継前の第一審被告田島守保の行動につきごうごうたる非難が起り、このままでは円滑な町政の運営が危ぶまれたことと本件借入金の長期にわたる利子負担が町財政を圧迫するため、議会において速かに本件土地を処分して一切を解決するよう強く田島町長に要望した結果であることが認められるから、結局、以上の各事情を綜合して考えてみると、同記本件土地取得のための借入から同土地の処分までは一連の且つ完結した社会的事実であつて、本件土地の売却処分による利益と本件借入による利息の支払とは相当因果関係の範囲内にあるものとは到底認めることができないものというべきである。それゆえ、第一審被告らの前記主張は採用できない。

六なお、承継前第一審被告田島守保が昭和四八年九月一三日死亡したので、同日その子である第一審被告田島曉がその権利義務を承継したことは当事者間に争いがない。

よつて、以上と同旨で、第一審原告らの本訴請求中、第一審被告ら各自に対し、金一、五〇〇万円を国立市に支払うべきことを求める部分を認容し、その余を失当として棄却した原判決は相当であつて、第一審原告ら及び第一審被告らの本件各控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、条八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(杉山孝 古川純一 岩佐善己)

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